今回の記事では、BS放送に欠かせない、放送衛星の調達の流れについてご紹介します。B-SATの衛星は、軌道上引き取りという、完成した衛星を打ち上げて宇宙空間での動作試験が完了した後に引き取るという調達方法を取っています。衛星の仕様策定から軌道上引き取りまで、非常に長い時間をかけて1基の衛星を調達していきます。
● 仕様策定~技術調査からメーカ選定まで~
まず、衛星を製造する前にB-SAT内で衛星仕様の策定を行います。国内外の衛星メーカに情報提供依頼や視察を行い、衛星技術動向を調査します。調査をもとに、衛星の仕様を決めていきます。BSAT-4aのように新規の衛星の場合は、事前調査を含めると仕様策定だけで1~2年を要します。
この仕様に沿って、国内外複数のメーカから衛星の提案が送られてきます。提案内容を比較評価して次世代衛星を作ってもらう衛星メーカを決定します。放送サービスに関わる部分の提案はもちろん重要ですが、提案評価の上でB-SATが最も重視しているのは、搭載機器の宇宙空間での動作実績です。衛星の障害リスクを減らし、確実に放送を継続するために、できる限り不具合の少ない信頼性の高い機器を採用するためです。そのため、B-SATの衛星は最新鋭の機器というよりも、少しこなれた機器が搭載されていることが多いです。こうして技術と価格を評価して、衛星メーカを決定し、契約を行います。提案依頼から契約完了まで、9カ月ほど要します。
● 製造~設計から衛星完成まで~
衛星の詳細な設計が始まります。放送に関わる部分に加えて、姿勢制御の方法や電源、熱制御など細かい部分まで確認していきます。ここでの設計は長きに渡る衛星運用に直接響いてくるので非常に重要です。衛星メーカに何度も赴いて、設計の詳細を詰めていきます。設計には、およそ9カ月要します。
設計審査で問題がなければ、製造工程に入ります。この工程からは、B-SATの社員が常時衛星メーカに駐在して、衛星の組み立てや試験状況を確認しています。主要部品の納入状況や、パーツ単位の試験結果確認をはじめ、駐在中は日々新しい情報が入ってきます。パーツを搭載しても良いかどうかの判断を求められることもあり、迅速な試験データ確認が必要になることもあります。衛星が組みあがってくると、衛星の総合的な性能を確認するための試験を実施していきます。試験については以前の衛星放送まめ知識を投稿していますので、あわせてご参照ください。
全ての試験が完了し、衛星が完成するまでは製造開始してから15カ月ほど要します。
● B-SAT衛星として引き取り~打ち上げから宇宙空間試験まで~
衛星が完成するといよいよ衛星を射場に出荷して打ち上げます。ちなみにB-SATはBSAT-4bまで全て南米ギアナのギアナ宇宙センターから打ち上げを行っており、BSAT-4a/4bの射場までの輸送には”アントノフAn-124”を利用しました。射場では、最終チェックとして輸送の影響を含めて2カ月間ほど試験を行います。この試験期間中、相乗り衛星も試験を行っており、打上機も最終組み立てと試験が行われています。ロケットの打ち上げは、これら全てがOKにならないとGOサインが出ませんので、B-SAT衛星以外のことも事細かに情報収集が必要になります。場合によっては長期間待つということもあり、こうなると関係者一同もどかしい日々を過ごすことになります。
無事ロケット打ち上げが成功した後、衛星搭載のスラスタを使って静止軌道である高度36,000kmまで移動するとともに、宇宙空間での性能試験を行います。静止軌道への投入完了と宇宙空間での試験で衛星の性能が確認できれば、晴れてB-SATの衛星として引き取り、運用が始まります。打ちあがってから引き取りまでは大体3カ月ほどです。
● まとめ
このように衛星1基を打ち上げるのに4年以上を要しています。もちろん、BSAT-4bのように全く同じ仕様の衛星を調達する場合は、仕様策定や設計に係わるスケジュールを短縮できます。以前まめ知識では地上側のバックアップ体制(BSデジタル放送における降雨減衰対策~サイト切替について~)についてご紹介しましたが、BSAT-4b引き取りにより、衛星側もバックアップ体制が確立したことにより、早期に一層安定した新4K8K衛星放送提供が可能になりました。
BS放送にとって、人工衛星は”かなめ”になりますが、一方で何か故障等の障害があっても直すことが出来ないものです。15年超も使用し続けるものの障害リスクを最小限とし、かつ将来のサービスでも通用するものにするために、プロジェクトメンバーは心血を注いでいます。トラブルなしに進むことはない、非常に神経を使う仕事ですが、この仕事は日本全国皆様に高品質な放送サービスをお届けするとともに、宇宙という簡単には携わることが出来ないフィールドですので、メンバーは誇りと夢と期待を胸に抱いて仕事をしています。全ての問題を解決して、無事衛星を引き取ることができた時の達成感はひとしおです。特に、衛星が無事に打ちあがった時の感動と安堵感は忘れられません。ロケットの写真をよく見ると、各社のロゴが載っています。実はここには関係者の名前を手書きで書いて、ロケット成功を祈願するとともに、関係者の魂をのせています(※筆者個人的な所感です)。この感動を読者の皆様とも共有できるよう、BSAT-4b打ち上げ時の写真を掲載いたします。
写真:アリアンスペース社提供